手持ちの8GB GPUで録音音声を文字起こししたいけれど、Whisperが動くか分からない。そんなときは、モデルだけでなく、動かすプログラムと設定をそろえて確認しましょう。
8GB VRAMでも、PC内で文字起こしをする候補はあります。NVIDIAのGPUでPythonの設定ができるならfaster-whisper、CPUやCUDA以外のGPUも含めて考えるならwhisper.cppが検討候補です。ただし、動かせるモデルと処理速度は、GPUの種類・計算精度・バッチ数でも変わります。
ここでは公式資料から実行条件を整理します。手元の8GB GPUで日本語の精度や速度を測った比較ではありません。
8GBで選ぶ前に、GPUの種類と使いたい機能を確認しよう
お使いのGPUの種類と、録音ファイルの文字起こしかライブ入力かを確認します。
「モデル」は音声認識の学習済みデータ、「実装」はそれを動かすプログラムです。WhisperXは位置合わせや話者分離などの追加処理も組み合わせます。
代表的な4つの実装について、検討する用途と動作環境の目安をまとめました。
| 実装 | 検討する用途 | GPU経路・CPU | 追加準備 |
|---|---|---|---|
| faster-whisper | 録音ファイルの一括文字起こし | NVIDIA GPU(CUDA)/CPU | Python環境。GPU利用時はCUDA・cuDNN等の設定 |
| whisper.cpp | 幅広い環境での文字起こし、CPU中心の運用 | CPU/NVIDIA CUDA/Vulkanなど | 環境に応じたビルドやバイナリの用意 |
| WhisperX | 単語単位の位置合わせ、話者ラベルの付与 | NVIDIA GPU(CUDA)/CPU | 追加モデルの取得、利用条件同意やトークン設定 |
| Vosk | オフラインでの常時音声入力、組み込み | CPU(標準配布バイナリ) | 言語モデルのダウンロード、各言語バインディング |
- faster-whisper GitHubリポジトリ(2026-10-21確認)
- whisper.cpp GitHubリポジトリ(2026-10-21確認)
- WhisperX GitHubリポジトリ(2026-10-21確認)
- Vosk 公式サイト(2026-10-21確認)
これらはライブラリやコマンドラインツールが中心です。画面のボタンで操作したい場合は、これらを組み込んだアプリの動作要件を別に確認してください。
「Whisper largeは約10GB」だけでは決められない
必要なVRAMは、モデル・実装・実行時の設定で変わります。
モデル名と実装をそろえてVRAMを見る
一般的に言われる「largeは約10GB」という数字は、OpenAIが公開しているオリジナルの実装(OpenAI Whisper README、2026-10-21確認)に記載されている目安です。
| モデル | パラメータ数 | 概算必要VRAM(OpenAI実装) |
|---|---|---|
| small | 244M | 約2GB |
| medium | 769M | 約5GB |
| large | 1550M | 約10GB |
| turbo | 809M | 約6GB |
※上記はOpenAIオリジナル実装のREADMEに記載された概算値です。各実装共通の最低必要量や、手元の8GB環境での快適な動作を保証するものではありません。
この表にある「turbo」モデル(OpenAI whisper-large-v3-turbo モデルカード、2026-10-21確認)は、large-v3をベースにデコーダ層を削減して高速化・省メモリ化を図った別チェックポイントです。OpenAI実装での概算は約6GBとなっており、8GB環境で検討する候補の1つになります。ただし、これはOpenAI実装での概算値であり、後述するfaster-whisperなどの別実装でそのまま6GBを消費するわけではありません。
パラメータ数、配布ファイル容量、システムRAM、GPU VRAMはそれぞれ別です。whisper.cppのREADME(2026-10-21確認)にあるlargeの「Disk: 2.9GiB / Mem: 約3.9GB」も、GPU・設定条件をそろえたVRAM実測としては使えません。
計算精度とバッチ数でも使用量が変わる
FP16は16ビットの浮動小数点、INT8は8ビットの整数を使う計算形式です。使う形式や、音声の区間をまとめて処理するバッチの大きさでも、VRAM消費が変わります。
faster-whisperの開発元が公開した測定例を見てみましょう。
| 処理方法 | 計算精度(公式表の表記) | GPUメモリ消費量 | 処理時間 |
|---|---|---|---|
| 通常処理 | FP16 | 4525MB | 63秒 |
| 通常処理 | INT8 | 2926MB | 59秒 |
| バッチ処理(batch_size=8) | FP16 | 6090MB | 17秒 |
| バッチ処理(batch_size=8) | INT8 | 4500MB | 16秒 |
測定条件:開発元SYSTRANによる測定、RTX 3070 Ti 8GB、CUDA 12.4、beam size 5、13分間の音声、faster-whisper v1.1.0、対象モデル:large-v2。
出典:faster-whisper README ベンチマーク(2026-10-21確認)
この表はlarge-v2に対する測定で、large-v3の数値ではありません。通常処理のFP16でも8GB GPUでの測定例があり、8GBなら必ずINT8が必要とは言えません。また、この測定ではバッチ化で処理時間が短くなる一方、VRAM消費は増えています。
保存する重みの形式と、実行時の計算形式(compute_type)も区別します。faster-whisperにはGPU向けのint8_float16の例がありますが、対応する計算形式はGPU世代で異なります。CTranslate2の量子化の説明(2026-10-21確認)で条件を確認してください。
large-v3をINT8系で動かす構成も候補ですが、GPUが対応する計算形式と、使う実装・バッチ数まで確認しましょう。
文字起こしだけか、話者分離まで必要かで構成を変える
テキストだけが必要か、字幕の時刻や話者ラベルも必要かを分けると、追加する処理を絞れます。
録音ファイルを文字にするなら、追加処理を増やしすぎない
録音ファイルをテキスト化することが目的なら、まず音声認識だけの構成を検討できます。
faster-whisper(2026-10-21確認)の公式案内はPython 3.9以上、NVIDIA GPU利用にはCUDA 12・cuDNN 9等が必要です。turboやmediumを候補にし、必要に応じてlarge-v3のINT8系設定を検討できます。
whisper.cpp(2026-10-21確認)は、CPU、NVIDIA CUDA、Vulkanなどに対応しています。GPUの種類と量子化方式に対応したビルド・バイナリを用意する必要があります。
WhisperXは位置合わせや話者ラベルが必要なときに
字幕の時刻を調整したい場合や、複数人の対談に話者ラベルを付けたい場合は WhisperX(2026-10-21確認)です。
WhisperXは、faster-whisperによる音声認識、別モデルによる開始・終了時刻の推定、話者分離モデルによるラベル付与を組み合わせます。通常の字幕出力に加えて、位置合わせや話者ラベルが必要かで選びましょう。
日本語の位置合わせには別のモデルが必要です。WhisperXのソースコード(2026-10-21確認)によると、日本語の位置合わせモデルには既定で jonatasgrosman/wav2vec2-large-xlsr-53-japanese(Hugging Faceモデルカード、2026-10-21確認)という別のモデルが利用されます。日本語は空白で単語を区切る言語とは処理が異なり、英語例と同じ使い勝手になるとは限りません。重なり発話や辞書外の文字など、公式が挙げる限界も確認しましょう。
また、話者分離機能で案内されているパイプライン(pyannote speaker-diarization-community-1、2026-10-21確認)を利用するには、Hugging Face上で利用規約への同意と、モデルをダウンロードするためのアクセス用トークン(User Access Token)の設定が必要です。
モデルを初めて取得するときの通信と、音声を処理する場所は別です。ローカル構成ではモデルをPCへ取得し、音声認識もPC上で実行します。
必要なメモリは、認識・位置合わせ・話者分離のモデルと、その読み込み方で変わります。WhisperXの公式READMEでも、VRAMが限られる場合の対処として、バッチサイズの縮小、モデルサイズの変更、INT8化などが案内されています。
CPUでのストリーミングを考えるならVoskも候補
Voskはオフライン音声認識ツールキットで、Python、Java、Node.js、C#などから利用できます(Vosk API、2026-10-21確認)。
Voskには、音声を逐次認識するストリーミングAPIがあり、CPU利用の候補にできます。CUDAバイナリは標準配布されていません(公式インストール案内、2026-10-21確認)。
Voskのモデル一覧(2026-10-21確認)には、日本語向けとして小型の vosk-model-small-ja-0.22(ファイルサイズ48MB)や、より大きな vosk-model-ja-0.22(1.0GB)が掲載されています。
ここで「48MB」と書かれているのは配布ファイルのダウンロード容量であり、GPU VRAMの消費量ではありません。CPUで動かす場合には、システムRAMの必要量を別に確認します。
録音ファイルの処理にも利用できます。今回の公式資料にはWhisper系と同条件の日本語精度比較はなく、用途ごとの修正量や遅延を確認して選びます。
日本語の精度と使いやすさは、実際の出力で判断しよう
日本語対応と手直しにかかる時間は別
Whisperの多言語モデルは日本語も対象にしています(OpenAI whisper-large-v3 モデルカード、2026-10-21確認)。しかし、実際の業務で日本語音声を文字起こしする際には、次のような問題が起こり得ます。
- 音声にはない架空の文章を延々と繰り返し出力してしまう現象(ハルシネーション・ループ)
- 業界用語や固有名詞、数字の聞き間違い
- 句読点(、や。)の挿入箇所の不自然さ
- 複数人が同時に話したときの重なり発話の聞き落とし
- 長い無音区間やノイズでの誤認識
学術ベンチマークの評価と、自分の録音で手直しが少ないかは別です。また、ファイルを処理する総時間と、発話から文字が出るまでのライブ遅延も分けて判断しましょう。
8GB環境で動作が不安定になったときの確認ポイント
手元の8GB環境で処理が途中で止まってしまったり、メモリ不足エラー(CUDA out of memory)が発生したりした場合は、次のポイントを順に確認してみてください。
- GPUの空きVRAMの確認
他のアプリのGPU利用状況も確認し、不要なアプリを終了して空き容量を確保します。 - 実行時の計算精度(compute_type)の変更
faster-whisperでFP16が収まらない場合は、GPUが対応する計算形式を確認してからINT8系を検討します。GPU世代によって使える形式は異なります。 - バッチサイズの縮小
バッチ処理を利用している場合は、バッチサイズを小さくする(あるいはバッチ化せず逐次処理にする)ことで、VRAM消費量を減らせる場合があります。 - 追加処理の切り離し
WhisperXでは、不要な機能を外すか、各工程で使い終わったモデルをメモリから解放してから次へ進む構成を確認します(公式Python例、2026-10-21確認)。 - モデルの変更やCPU推論の検討
large系でどうしてもメモリが不足する場合は、turboモデルやmediumモデルへの変更を検討します。また、処理時間に余裕があるなら、whisper.cppなどを使ってCPUで処理させることも有効な選択肢です。
ライセンスと利用条件の確認
コードと、取得する重み・追加モデルの利用条件は分けて確認します。faster-whisperやwhisper.cppのコードはMIT、日本語位置合わせモデルはApache-2.0、話者分離のcommunity-1はCC-BY-4.0と案内されています。配布元ごとの表示やモデル取得の条件も確認してください(faster-whisper、whisper.cpp、日本語位置合わせモデル、community-1、2026-10-21確認)。
次の一歩:自分の環境に合わせた候補の絞り込み
まずはGPUの型番とPython環境を用意できるかを確認し、公式要件と照らして候補を1つに絞ってください。利用権限のある音声を扱う機会に出力を確かめ、修正にかかる時間も含めて選びましょう。

