「今の仕事、なんとなく誰かの真似になっていませんか?」 「先輩やインフルエンサーが言った通りのやり方を、ただ繰り返しているだけになっていないでしょうか?」
Webライターや編集者として働いていると、「SEOの正解はこれ」「稼ぐならこのジャンル」といった“常識”に縛られがちですよね。でも、みんなと同じことをしていては、結局コモディティ化(ありふれた存在)してしまい、単価も頭打ちになってしまいます。
そんな閉塞感を打破するために、今こそインストールしたいのが「第一原理思考(First Principles Thinking)」です。
これは、あのイーロン・マスクがスペースXやテスラで革命を起こすために使っている思考法ですが、実は私たちのような個人フリーランスが、自分の頭で考えて独自のキャリアを築くためにこそ必要な武器なのです。
この記事では、難解な物理学の話は抜きにして、明日から使える「思考のOS」としての第一原理思考を解説します。
この記事の要点
- 脱・コピペ思考:なぜ私たちは「他人のレシピ(前例)」に頼ってしまうのか?
- 天才の思考回路:常識を疑い、ゼロから正解を作る「シェフ」になる方法。
- キャリアへの応用:他人の価値観ではなく、自分の本心に従って人生を設計する技術。
第一原理思考とは?「シェフ」と「料理人」で理解する

「第一原理思考」なんて聞くと、なんだか難しそうに聞こえますよね。 でも、その本質はとてもシンプルです。この思考法を理解する上で最もわかりやすいのが、著名なブロガーTim Urban氏が提唱した「シェフ(Chef)と料理人(Cook)」という例え話です。
多くの人はレシピ通りに作る「料理人(Cook)」
世の中のほとんどの人は、思考のクセとして「料理人」として生きています。
料理人とは、既に存在するレシピ(マニュアル、常識、前例)を見て料理を作る人のことです。 彼らは、「みんながそうしているから」「以前こうやったらうまくいったから」という理由で行動を決定します。
これを専門用語で「類推思考(Reasoning by Analogy)」と呼びます。
- 「競合サイトがこの見出しを入れているから、自分も入れよう」
- 「相場が文字単価1円だから、自分もそれで提案しよう」
- 「先輩が『今は動画編集が稼げる』と言っていたから始めよう」
これらはすべて、他者の判断や過去のデータを基準にした「類推」です。 もちろん、日常生活やルーチンワークにおいて、これは非常に効率的で悪いことではありません。いちいちゼロから考えていたら脳が疲れてしまいますからね。
しかし、環境が激変したとき、料理人は無力になります。 レシピが古くなったり、想定外の食材を渡されたりすると、自分ではどうすれば美味しい料理が作れるのかわからなくなってしまうのです。
イノベーションを起こす「シェフ(Chef)」
一方で、イーロン・マスクのような革新者は「シェフ」として思考します。
シェフは、レシピに頼りません。その代わりに、食材そのものの性質(味、化学反応、構造)を深く理解しています。 だからこそ、レシピがない状況でも、目の前の食材を組み合わせて、これまでにない全く新しい料理を創作することができるのです。
これが「第一原理思考(First Principles Thinking)」です。
物事をこれ以上分解できない「根本的な真実(First Principles)」までバラバラにして、そこから論理的に積み上げて新しい答え(結論)を導き出す方法です。
「みんながやっているから」ではなく、「物理的に可能だから」「論理的に正しいから」という基準で動くため、時には業界の常識を覆すようなアイデアを生み出せます。
【比較表】あなたはどっち? 類推思考 vs 第一原理思考
| 項目 | 料理人(類推思考) | シェフ(第一原理思考) |
|---|---|---|
| 判断基準 | 過去の経験、他者の模倣、常識 | 基礎的な事実、論理的推論 |
| 口癖 | 「普通はこうする」「前例がない」 | 「なぜそうなる?」「本質は何か?」 |
| 強み | 効率的、失敗が少ない(無難) | 独創的、破壊的イノベーション |
| 弱点 | 環境変化に弱い、独自性がない | 脳のエネルギーを大量に使う |
| 思考モード | コピー&ペースト | 分解&再構築 |
カッパパ僕たちフリーランスも、最初は「料理人」からスタートしてもいいんです。マニュアル通りに納品するのは大事なスキルですから。 でも、そこから一歩抜け出して「自分だけの単価」や「独自のポジション」を作るには、どこかのタイミングで「シェフ」の思考に切り替える必要があります。
なぜイーロン・マスクは不可能を可能にできるのか?
では、実際にイーロン・マスクがどのようにこの思考法を使って、不可能と言われたプロジェクトを成功させたのかを見てみましょう。 ここでのポイントは、彼が「業界の常識(類推)」を徹底的に無視し、「物理的な事実(第一原理)」だけを信じたという点です。
SpaceXの事例:ロケットはなぜ高い?
2000年代初頭、マスクが火星移住計画のためにロケットを買おうとした時、ロシアやアメリカのメーカーから提示された価格は1基あたり約65億円(6500万ドル)という莫大な金額でした。
- 世間の常識(類推):「ロケットは高価なものだ。国家予算レベルの産業であり、安くするのは無理だ」
普通の起業家ならここで諦めます。しかし、マスクは「シェフ」として思考し、ロケットを構成要素まで分解しました。
- 分解(Deconstruction):「ロケットって、そもそも何でできているんだ?」
- 航空宇宙グレードのアルミニウム合金
- チタン、銅、炭素繊維
- 事実の確認:「それらの原材料を市場価格で買うといくらだ?」
- 計算の結果、ロケットの重量分の材料費は、完成品価格のわずか**2%**に過ぎないことが判明しました。
- 再構築(Reconstruction):「残りの98%は人件費や中間マージンだ。それなら、材料を買って自分で組み立てれば、劇的に安く作れるはずだ」
こうして生まれたのが、部品のほとんどを自社製造(垂直統合)し、コストを従来の10分の1以下に抑えたSpaceXのロケットです。さらに彼は「物理的にロケットが使い捨てでなければならない理由はない」と考え、再利用ロケットまで実現させました。
Teslaの事例:バッテリーの価格破壊
電気自動車(EV)でも同じことが起きました。当時、EV普及の最大の壁はバッテリーの高さでした。
- 世間の常識(類推):「過去のデータを見ても、バッテリー価格はなかなか下がらない。EVは普及しないだろう」
ここでもマスクは、過去のトレンドラインを無視しました。
- 分解:「バッテリーの構成物質は何か?」
- コバルト、ニッケル、アルミニウム、炭素、ポリマーなど。
- 事実の確認:「ロンドン金属取引所でのこれら物質の価格は?」
- なんと、市場価格(1kWhあたり600ドル)に対し、物質的な原価は80ドル程度でした。
- 再構築:「それなら、物質を安く仕入れ、賢い方法で組み合わせる新しい製造方法を考えればいい」
結果、テスラはパナソニックと提携して巨大工場(ギガファクトリー)を作り、サプライチェーンを刷新することで、圧倒的な低コストバッテリーを実現しました。



これ、Webの仕事でも同じことが言えます。「Webライターの相場は1文字1円」「YouTube動画編集は1本5000円」という相場も、実は誰かが作った「常識」に過ぎません。 「クライアントが本当に求めている成果(=売上アップ)は何でできているか?」と分解すれば、相場を無視した高単価な提案ができるようになりますよ。
明日から使える!第一原理思考の実践3ステップ
「それは天才だからできたんでしょ?」と思うかもしれませんが、思考のプロセス自体は誰でも真似できます。 ここでは、日々の悩みや課題を解決するための3ステップ・フレームワークを紹介します。
ステップ1:前提を疑い尽くす(Socratic Questioning)
まず、自分が「正しい」と思い込んでいること、あるいは「常識だ」とされていることを書き出し、それに「なぜ?」「本当に?」と問いかけます。これをソクラテス式問答法といいます。
【例:Webライターで稼げない悩み】
- 前提:「もっと稼ぐには、記事をたくさん書くしかない」
- 疑う:「本当に? 単価を上げる選択肢はないの?」
- 前提:「単価を上げるにはSEOの実績が必要だ」
- 疑う:「実績がなくても、クライアントの売上に貢献できる提案があればいいのでは?」
「それは事実(Fact)か、それともただの意見(Opinion)か?」を見極めるのがコツです。
ステップ2:根本要素まで分解する(Deconstruction)
次に、問題をこれ以上分けられない要素までバラバラにします。 イメージとしては、複雑なレゴブロックの城を壊して、元のブロックの山に戻す感じです。
- 記事作成の仕事を分解する
- リサーチ
- 構成案作成
- 執筆
- 推敲
- WordPress入稿
こうして分解すると、「執筆以外の部分はAIや外注に任せられるかも?」「構成案作成だけの特化プランの方が需要があるかも?」といった発見がしやすくなります。
※トヨタの「なぜなぜ分析(5 Whys)」は原因究明に使いますが、第一原理思考では「構成要素の発見」のために使います。
ステップ3:ゼロベースで再構築する(Reconstruction)
最後に、バラバラにした要素を目的に合わせて新しく組み合わせます。 ここで重要なのは、「今までこうだったから」という記憶を消して、ゼロベースで考えることです。
- 従来のやり方:クラウドソーシングで案件を探して、記事を書く。
- 再構築案:
- 「リサーチ」が得意なら、「企業の代わりに競合分析レポートを作るサービス」を売る。
- 「入稿」が面倒なクライアントが多いなら、「入稿・装飾完全代行プラン」を高単価で提案する。
このように要素を組み替えることで、ライバルのいない独自のポジション(ブルーオーシャン)を見つけることができます。
なぜ私たちは実践できないのか?脳の「省エネ」メカニズム
「やり方はわかった。でも、毎回そんな深く考えるのはしんどい…」 そう思った方、正常です。実は、私たちの脳は「第一原理思考」を避けるように設計されているのです。
脳は「認知的吝嗇家(ドケチ)」である
脳は体重の2%しかありませんが、エネルギーの20%を消費する大食漢です。そのため、本能的にカロリー消費を抑えようとします。これを心理学で「認知的吝嗇家(Cognitive Miser)」と呼びます。
- 類推思考(料理人):過去のパターンを当てはめるだけ。省エネで楽。
- 第一原理思考(シェフ):ゼロから論理を組み立てる。脳に高負荷がかかる。
つまり、私たちがつい「前例踏襲」や「コピペ」をしてしまうのは、脳がサボろうとする防衛本能なのです。だから、「自分は意思が弱い」と責める必要はありません。「脳が通常運転しているだけ」と割り切りましょう。
「機能的固着」の罠を抜け出す
もう一つの敵が「機能的固着(Functional Fixedness)」です。 これは、「ハンマーは釘を打つもの」といったように、モノや概念の用途を固定して見てしまう心理現象です。
フリーランスの現場でも、この固着がアイデアを殺しています。
- 「Web記事」=「検索順位を上げるためのもの」と思い込んでいませんか?(→読者をファンにするための手紙と考えてもいいはず)
- 「会議」=「Zoomで顔を合わせること」と思い込んでいませんか?(→テキストチャットで非同期に進めるのが最適解かもしれない)
この固着を外すには、先ほどの「分解」が効きます。「記事」という名前を捨てて、「情報の集合体」と捉え直すことで、新しい使い道が見えてきます。
フリーランスの生存戦略:キャリアに応用する「渇望するタコ」
ここからは、この思考法を「人生設計」に応用してみましょう。 多くの人が「やりたいことがわからない」「将来が不安」と悩むのは、他人のレシピ(世間の成功法則)で自分の人生を料理しようとしているからです。
Tim Urban氏は、人間の複雑な欲望を「渇望するタコ(Yearning Octopus)」に例えています。
あなたの中にいる「5本足のタコ」
あなたの頭の中には、それぞれ異なる欲望を叫ぶ「5本足のタコ」が住んでいると想像してください。
- 個人的な足:「スキルを磨きたい」「自分らしくありたい」
- 社会的な足:「親に認められたい」「SNSでチヤホヤされたい」
- ライフスタイルの足:「朝寝坊したい」「ハワイに住みたい」
- 道徳的な足:「人の役に立ちたい」「不正はしたくない」
- 実利的な足:「お金持ちになりたい」「借金を返したい」
悩みが生じるのは、例えば「実利的な足(稼ぎたい)」と「ライフスタイルの足(楽したい)」が喧嘩している時です。 まずは、自分のタコの足がそれぞれ「何を叫んでいるか?」を紙に書き出して分解してみましょう。
「詐欺師」を見つけ出し、独自のルートを作る
ここからが第一原理思考の出番です。書き出した欲望の中に、「詐欺師(Imposters)」が紛れ込んでいないかチェックします。
詐欺師とは、「本当は自分の望みではないのに、自分の望みだと思い込まされているもの」です。
- 「大手企業と取引すべきだ」→ 本当に? 親や世間の常識(類推)をコピーしているだけでは?
- 「月収100万ないと幸せじゃない」→ 本当に? SNSのインフルエンサーに植え付けられた価値観では?
これら「他人のレシピ」である詐欺師を追い出し、純粋な自分の欲望(第一原理)だけを残しましょう。 そして、その欲望と、現実の自分のスキル(事実)を組み合わせて、「自分だけのキャリアの正解」を再構築するのです。



僕は独立当初、「年商〇〇円目指すべき!」という”詐欺師”に振り回されて疲弊しました(笑)。 第一原理で考え直した結果、「家族と夕飯を食べる時間が最大化されるなら、売上はそこそこでいい」という結論に至り、今のストレスフリーな働き方ができています。
まとめ:すべての判断で使う必要はない
最後に大切なことをお伝えします。 「24時間365日、第一原理思考で生きる必要はありません」
すべてをゼロベースで考えていたら、歯磨きの仕方から歩き方まで考え直すことになり、脳がパンクしてしまいます。
- 日常の90%:効率重視の「料理人(類推)」でOK。
- 人生の重要な10%:ここぞという時だけ「シェフ(第一原理)」になる。
独立する時、結婚する時、新しいビジネスを始める時。 そんな「人生の岐路」に立った時だけは、他人のレシピを捨てて、自分の頭で考えてみてください。AIが答えを出してくれる時代だからこそ、「問いを立てる力」を持つ人だけが、独自の人生を切り拓けるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. 第一原理思考とロジカルシンキングの違いは何ですか?
ロジカルシンキング(論理的思考)は論理の整合性を重視する広い概念ですが、第一原理思考はその中でも特に「前提を疑い、最小単位まで分解してから再構築する」というプロセスに特化したアプローチです。ロジカルシンキングの一部であり、より根本的な解決を目指す際に使われます。
Q. 初心者が練習するにはどうすればいいですか?
まずは日常の小さな「当たり前」に「なぜ?」と問いかけることから始めましょう。「なぜ1日3食なのか?」「なぜ満員電車に乗って通勤するのか?」など、身近な習慣を疑う練習が効果的です。
Q. トヨタの「5回のなぜ(5 Whys)」との違いは?
トヨタの「5回のなぜ」は主に「ミスの原因究明と再発防止」のために過去へ掘り下げる手法です。一方、第一原理思考での分解は、「構成要素の発見と未来へのイノベーション」のために行います。掘り下げる方向性は似ていますが、目的が異なります。
Q. デメリットはありますか?
最大のデメリットは「時間とエネルギーがかかること」です。また、既存のシステムを否定することになるため、組織内では「空気が読めない」「面倒な人」と思われるリスクもあります。TPOを選んで使いましょう。
参考:The Cook and the Chef: Musk’s Secret Sauce — Wait But Why
