Lenovo ThinkStation P520、HP Z4 G4、Dell Precision 5820…。 XeonプロセッサにECCメモリ、堅牢な電源ユニットを搭載した「プロ仕様」のマシンたちが今、捨て値のような価格で中古市場に放出され、自作PCユーザーやサーバー用途の界隈を賑わせています。
しかし、これらの中古ワークステーションを購入した際、多くのユーザーを悩ませるのが、標準搭載されているグラフィックボードの扱いです。
その筆頭が、NVIDIA Quadro P2000 です。
「CAD用でしょ? ゲームなんて無理無理」 「GeForceでいうとGTX 1050 Tiくらいらしいよ」
そんな風に言われ、届いた瞬間に引き抜かれてGeForceに換装される運命にあるこのカード。 しかし、本当にそれは正しい判断なのでしょうか?
今回は、多くの中古WSに標準搭載されているこの「オマケ」GPUを徹底的に使い倒し、2025年〜2026年のゲーミング環境でどこまで通用するのかを検証しました。 結論から言うと、「GTX 1050 Ti相当」という評判は過小評価です。こいつ、もっと動きます。
ワークステーションの「謎GPU」Quadro P2000とは

Quadro(現・NVIDIA RTX A/Tシリーズ)は、クリエイターやエンジニア向けのプロフェッショナル用GPUブランドです。 ゲームの描画速度よりも、3DCADの線の正確さや、長時間稼働の安定性を重視して設計されています。そのため、「ゲームには向かない」というのが定説でした。
なぜ今、P2000なのか?
最大の理由は「中古WSを買うとタダ同然でついてくることが多いから」です。 Lenovo P520やHP Z4 G4などのミドルレンジ機において、このP2000は定番の装備品。本来なら数万円するプロ用カードですが、本体セット価格に含まれることで実質0円で手に入ってしまうのです。
基本プロファイル:実はマルチモニタの強い味方

ベンチマークに入る前に、このGPUの素性を整理しておきましょう。
- 発売時期:2017年2月
- GeForceでいうとGTX 1080 Tiが登場する少し前、Pascal世代全盛期にリリースされたミドルレンジモデルです。
- インターフェース:DisplayPort 1.4 × 4
- HDMIポートは搭載していません。一般的な家庭用テレビやHDMIモニターに接続するには、変換ケーブルが必要になります。
- 最大同時出力:4画面 (5K対応)
- これがワークステーションたる所以です。最大5120×2880の超高解像度モニタを4枚同時に出力できる能力を持っています。株取引や監視業務で重宝される理由がここにあります。
- サイズ・電力:1スロット厚 / 補助電源不要 (75W)
- 非常に薄く、省電力です。
カタログスペックを改めて見直してみると、ただの「付属品」にしておくには惜しい、意外なポテンシャルが見えてきます。
スペック比較:実はGTX 1060に近い?
P2000のスペックを、同世代(Pascalアーキテクチャ)のGeForceと比較してみましょう。
| 項目 | Quadro P2000 | GTX 1050 Ti | GTX 1060 (3GB) |
|---|---|---|---|
| アーキテクチャ | Pascal | Pascal | Pascal |
| CUDAコア数 | 1,024基 | 768基 | 1,152基 |
| ビデオメモリ(VRAM) | 5GB GDDR5 | 4GB GDDR5 | 3GB GDDR5 |
| メモリバス幅 | 160-bit | 128-bit | 192-bit |
| 補助電源 | 不要 (75W) | 不要 (75W) | 必要 (120W) |
お分かりいただけただろうか。
一般に「1050 Ti相当」と言われていますが、処理能力の要となるCUDAコア数は1,024基。これは1050 Ti(768基)よりも、むしろ上位の GTX 1060(1,152基)に近い数値 です。 さらに、VRAMは 5GB という変則的な容量。現代のゲームはVRAM 4GBだとテクスチャ設定などで足切りを食らうことが多いですが、この「プラス1GB」が生存戦略上の大きな武器になります。
検証環境

今回は検証機として、市場流通量の多い Lenovo ThinkStation P520 を使用します。 CPUはエントリー寄りのW-2123ですが、これがボトルネックにならなければ、HPやDellの同世代機を使っているユーザーにとっても参考になるはずです。
- PC本体: Lenovo ThinkStation P520
- CPU: Intel Xeon W-2123 (4コア/8スレッド 3.60GHz / TB 3.90GHz)
- メモリ: 32GB DDR4 ECC Registered
- GPU: NVIDIA Quadro P2000 (5GB)
- OS: Windows 11 Pro for Workstations

ベンチマーク実測:予想を裏切るハイスコア
それでは、定番ベンチマークソフトでその実力を丸裸にしていきましょう。
① 3DMark (Fire Strike)

まずはDirectX 11の性能を測るFire Strikeです。
- Graphics Score: 9,780
- Total Score: 8,352
これは衝撃的です。 GTX 1050 Tiの平均的なGraphics Scoreは約7,500点前後。対してP2000は約9,800点を叩き出しました。 その差、実に2,000点以上。率直に言ってクラスが違います。GTX 1060 3GB(約11,000点)の背中が見える位置につけており、補助電源なし・1スロット厚のカードとしては驚異的な効率です。
② FINAL FANTASY XV (FF15) ベンチマーク

重量級ゲームの代名詞、FF15。「重いゲーム」が動くかの指標になります。
- 設定: 1920×1080 (FHD) / 標準品質 / ウィンドウモード
- スコア: 4,947 (やや快適)
なんと、画質を落とした「軽量品質」に逃げることなく、「標準品質」で「やや快適」判定が出ました。 PS4世代の重厚なRPGであっても、標準的な画質設定で十分にプレイアブルであることが証明されました。
③ FINAL FANTASY XIV (FF14) 黄金のレガシー ベンチマーク

グラフィックアップデートが行われ、要求スペックが上がった最新版ベンチマークです。
- 設定: 1920×1080 (FHD) / 高品質(デスクトップPC) / ウィンドウモード
- スコア: 7,702 (やや快適)
こちらも「高品質」設定で「やや快適」をマーク。 平均フレームレートも50fps前後出ているため、レイドや多人数コンテンツに参加しても、設定を少し調整するだけで十分快適に遊べる水準です。「MMOならP2000で余裕」と言い切って良いでしょう。
ここまでのベンチマークテストで、「P2000はGTX 1050 Tiを明確に超えている」ことがハッキリしました。 では、実際のゲームプレイ、特に最近のアクションゲームや話題作ではどう動くのでしょうか?
人気ゲーム実戦検証:意外なほど「遊べる」
ベンチマークが良いのは分かりましたが、実際のゲームプレイは別物です。 今回は軽量級から重量級まで、いくつかのタイトルで実際に遊んでみました。
① モンスターハンターライズ:サンブレイクDEMO(MHRS)

まずはREエンジン採用で最適化が優秀なモンハンライズ。FHD解像度でプレイしました。
- 判定: プレイ可能(概ね快適)
- 詳細: 基本的に非常に滑らかです。Switchベースのタイトルということもあり、P2000にとっては余裕のある部類に入ります。 ただし、ヨツミワドウの水攻撃や、マルチプレイでエフェクトが重なる乱戦時には、若干のフレームレート低下を感じました。検証中、激しい水しぶきの中で処理落ちを確認しようと突っ込んだところ、そのまま力尽きてキャンプ送りになりました。 ハンターは死にましたが、PCは落ちなかったのでヨシとします。ガチ勢でなければFHD高設定でも十分楽しめます。
② Minecraft (Java版)

- 判定: 余裕で快適(影Mod OK)
- 詳細: バニラ(Modなし)は当然として、負荷の高い影Mod(シェーダー)を入れても余裕で動作します。 ここで効いてくるのが VRAM 5GB です。VRAM 4GBのGPUだと高解像度テクスチャや重いシェーダーを入れた際にメモリ不足でカクつくことがありますが、P2000はその壁をひょいと超えてくれます。 マイクラ用マシンとしては、これ以上ないほど優秀な選択肢です。
③ Apex Legends
- 判定: プレイ可能(競技設定推奨)
- 詳細: FHD・低設定(いわゆる競技設定)であれば、戦闘中でも十分なフレームレートが出ます。 バンガロールのスモークの中など、透過処理が重なる場面では一瞬フレームが落ちますが、カジュアルマッチを楽しむ分には全く問題ありません。「とりあえずApexやりたい」という友人に中古WSごと渡しても文句は言われないレベルです。
④ 風燕伝:Where Winds Meet (2025年新作)

- 判定: 一応プレイ可能
- 詳細: 2025年リリースの最新オープンワールドアクションRPG。本来はRTX 3060以上を推奨するような重量級タイトルです。 さすがに最高画質は無理ですが、画質設定を落とせば「起動すらしない」ということはなく、普通に遊べるレベルで動作しました。 最新作でも足切りされずに動くのは、やはり腐ってもPascalアーキテクチャの1024コアといったところでしょうか。
⑤ バイオハザード RE:4
- 判定: 限界ライン(カクつきあり)
- 詳細: ここが今回の検証で見えた「P2000の限界」です。 起動はしますし、プレイも「なんとか」可能です。しかし、モンハンと同じREエンジンでもこちらは描画負荷が段違いに重く、移動中や戦闘中にちょいちょいスタッター(カクつき)が発生します。 FSR(アップスケーリング)を駆使して画質を落とせば遊べなくはないですが、「快適」とは言い難い。このクラスの最新AAAタイトルを遊ぶなら、素直にGPUを換装すべきでしょう。
番外編:生成AI (Stable Diffusion / LLM) は動くのか?
最近のGPU需要の主役といえばAIです。「P2000で画像生成とかできるの?」という疑問を持つ方もいるでしょう。 結論から言うと、「動くけど、実用的ではない(厳しい)」です。
Stable Diffusion (画像生成)
- 動作: 環境構築は可能で、起動もします。
- 使用感: 512×512程度の低解像度かつ、軽量なモデルであれば画像の生成は可能です。しかし、生成速度はかなり遅いです。RTX 3060などが数秒で終わる処理に、分単位の時間がかかることもあります。 また、VRAM 5GBというのはAI生成においては「最低ライン以下」に近いです。高解像度化(Hires.fix)や、LoRAの学習などをさせようとすると、即座にVRAM不足(CUDA out of memory)で落ちます。 「どんなものか触ってみたい」という入門用にはなりますが、本格的にAIイラストを作りたいなら力不足は否めません。
ローカルLLM (大規模言語モデル)
- 動作: 非常に厳しい。
- 使用感: 最近流行りの「ローカルPCで動かすAIチャット」ですが、これには大量のVRAMが必要です。 VRAM 5GBで動かせるのは、パラメータ数を極端に減らした軽量モデル(Phi-3-miniなどの3B〜4Bクラス)かつ、量子化(圧縮)されたものに限られます。 一般的な7B〜8Bクラスのモデルを動かすのはかなり厳しく、動いたとしても応答速度が非常に遅いため、チャットとして成立させるのは難しいでしょう。
結論:AIをやりたいなら、悪いことは言わないからVRAM 12GB以上のGeForce(RTX 3060 12GBなど)を買いましょう。
中古相場の罠:単体で買うべきか?
ここまで読んで「P2000、意外といいじゃん!買おうかな」と思った方へ、一つ重要な注意点があります。 それは「中古相場の高騰」です。
2025-2026年の相場事情
かつては7,000円台で投げ売りされていたP2000ですが、そのコスパの良さがバレてしまったのか、現在は価格が上昇傾向にあります。
- フリマサイト(メルカリ・ヤフオク): 12,000円 〜 15,000円 前後
- PCショップ中古: 13,000円 〜 18,000円 程度
単体購入は正直「微妙」
もし今、15,000円出してP2000単体を買おうとしているなら、ちょっと待ってください。 その予算があれば、中古の GeForce GTX 1650 や、もう少し足して Radeon RX 6600 などが見えてきます。これらはP2000よりもさらにゲーム性能が高く、ドライバ周りの面倒もありません。
「WS付属」こそが最強の入手ルート
P2000が真に輝くのは、「中古ワークステーションを買ったら勝手についてきた」というパターンです。 Lenovo P520やHP Z4 G4などの本体セット価格(4〜5万円)に含まれているなら、このGPUの実質価格はタダ同然。 「タダで手に入るGPUが、GTX 1050 Tiより強い」 これこそが、P2000最大の魅力なのです。
まとめ:P2000はまだ戦える
今回の検証結果をまとめます。
- 性能は GTX 1050 Ti 以上、GTX 1060 (3GB) 未満。
- VRAM 5GB が優秀で、マイクラ影Modや最新ゲームの起動要件をクリアしやすい。
- モンハン、Apex、原神、FF14 クラスならFHD設定で十分に楽しめる。
- 生成AIは厳しい。 お試し程度なら動くが、VRAM不足との戦いになる。
- 単体で買うには高いが、中古WSの付属品としては神コスパ。
結論
中古ワークステーションを購入して、蓋を開けたら鎮座していたQuadro P2000。 どうか、「ゲーム用じゃないから」と即座に引き抜いて捨てないであげてください。
最新の激重タイトルを最高画質で遊びたい! AIで画像をバリバリ生成したい! という欲張りな要求でなければ、この薄くて補助電源もいらない緑色のカードは、あなたの期待以上に良い仕事をしてくれるはずです。
とりあえず、私はこれでモンハンに戻ります。(次は乙らないように頑張ります)
